たばた絞り|絞り染め|02
#02 たくさんの人に「知ってもらう」こと
1400年以上続く、絞り染めの世界。機械業から手仕事の魅力に惹かれて 絞り染めの世界に飛び込んだ、「たばた絞り」の田端 和樹さん。一枚一枚、違った仕上がりになる絞り染めは、 全てが手仕事だからこその味わいがあります。「知られていないのは、技術が悪いからではないんです。」 そうおっしゃる田端さんが生み出す作品は、 私たちには新鮮で「新しい」と感じるものばかりです。そんな絞り染めの魅力についてお話ししてくださいました。
──布にこだわりはあるのでしょうか?
「京鹿の子絞り」っていう伝統工芸品に属するものは、“絹”に限ったものなんです。でも絹ってすごく高級なものですし、なかなか一般の人の手に届くのは難しいもの。ですから綿とか麻とかに絞りを入れて、安い値段で作ってたくさんの人に「知ってもらう」ことを大事にしたくて。お洗濯ができるのが第一条件かなと。あとはご依頼された時にその生地が対応できるのかだったり。結構考えてますね。
──やはり生地によって染まり方は違うのでしょうか。
そうですね。同じ染料使っても、絹だったら光沢が出たり綿だったらあせて見えたりとか。絹製品はできないけど、お洗濯できるものだったら、汗かいても大丈夫ですしね。例えばドライクリーニングなどはどんどん色も変わってきます。日に当たったら色も抜けたりしやすいけど、それを楽しむっていう方もいらっしゃる。綿に関してはお洗濯できることが条件なので、色が変わるっていうことはほぼないです。何年かしたら色褪せたりはしますけど、絹より全然そのまま。こだわりっていうよりかは「使い勝手がどうか」っていう部分ですかね。最近はポリエステルも主流です。でも絞りにするとナイロンには染料がつかなかったりするので、染め方が変わってくるんです。生地に染料を「押し込む」みたいな染め方になる。そうなると大きな工場でしかできなくなるので、手染めではなくなっちゃう。
──全部機械で、ということになるんですね。
そうです。機械に入れて、電気釜みたいな感じで圧力をかけて。本来は傘に水が弾くようにナイロンの上に染料は乗らないんです。それを無理やり電気で押し込んで生地に染料を押し込んで「染める」という感じです。
──そうやって染めたものは、洗っても取れないんですか?
取れないです。そういう染め方も、「手染め」の範囲を超えているので、絞り染めではないくくりになってしまうんですね。でも、圧力の方法で絞りをできるかと言ったらできないんです。ビニールをかけたり、糸とか巻いたりしているものが熱に耐えきれずに溶けてしまったりするので。防染ができなくてその下も全部染まってしまう。圧力で染めても、絞りはできないんです。染めることができても、絞りはできない。ポリエステルで絞りはできても、染色ができない。だから、素材や生地によってもできる、できないがありますね。
知識が必要なのは「価値」の理解のため。
──染まった後も綺麗ですけど、染める前の形もとても面白いです。
なかなか想像つかないですよね。製品としてしか見られないですけど、工程がすごく面白い。逆にこういう作業風景を世の中に出してしまうと「このくらいの手間なのか」って思う方もいらっしゃるから、物を販売している方は「技術を見せないでくれ」って。僕は見せた方が良いと思うんですけどね。昔は見せないことが当たり前で、誰がやっているのかも知られていないから職人さんが閉鎖的になる。でも入り込めばすごく優しい方も多いです。初めて染め屋さんに行ったときは、むすっとされていた。染めを頼んだものに少し納得がいかないところがあっても、お互い言葉が少なくて「じゃあやっておくわ」だけだったり。だけど僕が染めを勉強して知識を得たら、なんでこうなったのかが分かってきて、それを伝えたことで染め屋さんとの理解が深まったんです。知識を得ることで僕も意見がしやすくなるし、向こうも理解してくれる。何事もそうですよね。何も知らない人が指摘だけしても、説明もできないし、もういいかなってなっちゃう。やっぱり知識を得て、人と関わることはすごく大切ですよ。
──知識がないと、本来の物の価値がわからない。すごく刺さりますね。
そうですよね。完成品だけを見て、「ここはもっと揃えて欲しかった」とだけ言われても、そこに行き着くまでの作業を見てみないと、大変さもわからないですから。やってみて、手間暇を知った後の方が、魅力は格段に伝わると思います。
不器用だけど、気にしてくれる街
──Old is Newについて
知らないから一旦リセットされてるようなものって、たくさんありますよね。絞り自体が、昔なら多くの人が知ってましたけど、今の人には伝わらないことが多いんですよね。だからこそ、絞り自体が old is new なのかも。10年くらい前から「雪花絞り」って言うのを始めたんです。これはもともとおしめの模様なんです。おしめの生地の汚れを色をつけて誤魔化したり可愛くしたいって染めたみたいで。年配の人がこの柄を見たら、「おしめの模様ね、懐かしい」って言う方が多いけれど、僕らの世代になるとそれすら知らない。海外の方だとおしめの柄なんか服にするのは嫌だ、って日本から流出しなかったんです。他の柄の技術は中国とかにも伝わっていったけど、雪花絞りだけは日本にしかなくて。最後の雪花絞りの継承者の方しかできなかったんですけど、3、4年くらい前に知り合いの方に「雪花絞りしてくださいよ」って言われてから気になって。一度は断ったものの、できるできない関係なしに、一回たどってみようってやってみたのがきっかけです。何回もやって、2年前に何となく形になり、ようやくできるようになったんです。その当時は僕とその方だけができるようになって、そのあとは僕が大学やネットで教えて広まったんです。リセットされた「おしめの柄」ですから、old is new ですね。
──形に行き着くまでの試行錯誤があったからこそですね。
染めても染めてもゴミになって、お金にはならない時期がありましたね。初めはその後継者の方に教わったらどうかなんて話もあったんですけど、教わってやるっていうより自分の力でやってみたくって。
──田端さんにとって、京都はどんな街ですか。
通り名に水にちなんだ名前が多いですよね。河原町とか白川通とか。昔も今も、京都の盆地の下には琵琶湖に匹敵するほどの甕があるから井戸水が出て、水が豊富な土地なんです。こういう土地だからこそ職人が集まってきたんでしょうね。人も、冷たいようやけど本当はすごく優しい人たちばっかりですし、横のつながりが強いですね。京都って分業が多いでしょう、1つのことに集中することができるから、高い技術が集まって、いいものができる。これが京都の伝統工芸なんです。冷たくされてもそれは愛情があるからで、そこには理由があります。
(おわり)