10 舞妓、こける
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ぽっちり
舞妓さんの帯の真ん中には「ぽっちり」というおおきな帯留めがついていて、これは所属する置屋さんの持つ家宝と言われるほど大切なものです。たいてい、翡翠や瑪瑙、珊瑚などの宝石が合わさって一つになっていて、技術的にも新しく作ることは難しいらしく、代々使われてきたものを大切に大切に付けさせていただきます。
なので、よく言われるのが「転んでもぽっちりだけは守ってや」とか「顔は治るけどぽっちりは直らへんえ!」というようなこと。またまた〜と言いたいところだけど、舞妓さんの足元は15cmほどの厚底の下駄、「おこぼ」なので実は転びそうな機会はとっても多く、常に緊張感のある歩行。それに、お座敷からお座敷への移動は大体が早足なので、私は実際に道で3回ぐらい転んでいるし、ぽっちりのことは転んだ後に心配になります。幸い、傷つけたことはありませんが……。転んだことのない舞妓さんはいないはず!と思いたい。
舞妓の宿命
それからお茶屋さんの階段はほとんどが急勾配で踏み板も狭いという特徴があります。うなぎの寝床と言われる細長い空間に少ないスペースで階段を、という昔ながらの作り。重い時で10キロの衣装を纏いながら上り下りしなければいけない舞妓さんにはかなり酷です。なので、これも落ちます。だらりの帯という長い帯や振袖の長いたもとにつまずいて落ちていきます。「落ちてからがうちの子や」と女将さんに笑われるほどみんなが通る道です、と思いたい。
そんなことから、舞妓さんは必ず帯を片手で掴んで前に引っ張り、両たもとはもう一方の手でまとめて持つという不思議な格好で階段を上り下りする癖がつきます(でもそのせいで手すりはつかめない)。なるべく小さく小さくなるような感じ。
そんなわけで舞妓さんはこけることが宿命のような、かいらしい生命体。こけるのは少しの事件感とぽっちりを守った達成感がありますが、それさえないのは足の捻挫です。おこぼで足をぐねったことがある人はわかると思うけれど、あんなに地味で辛くて恥ずかしいことはないです。



