真田紐師 江南 | 真田紐 | 01
#01 ”約束紐”は秘密の暗号
今回は日本で最後の手織り 真田紐師「江南」和田伊三男さんのお話。真田紐は、証明書のような役割をもつ秘密の詰まった紐。江南では機織り機の調整から糸の染め・織り・加工・機織り機の調整まで全て15代目になる和田さんご夫婦でされています。
──“真田紐”の特徴はなんですか?
経糸と緯糸を使って、機織り機(はたおりき)で織っているので平たいことです。真田紐には織り方が大きく2種類あって、木綿の『一重織り』はお茶碗やお土産など少し安いものに使われます。『袋織り』は二重構造になっていて、とても頑丈なので、美術品など価値の高いものに使われています
──“真田紐”という名前を初めて知りました。どういうものに使われていますか。
主に茶道具の桐箱の紐などに。現代ではカバンの取手やカメラの紐などデザイン性と機能性が広がっていっています。昔はどの家にも置き薬とセットで置き紐が置いてあって、日常生活で使うものでした。襷(たすき)に、腰巻に、雪下駄に巻いたり、色んなことに使えて便利なもの。人によって使い方が違うので「自由に使ってください」と言っています。
1日で大体5mしか織れない
──現在、他に真田紐師はいらっしゃいますか。
手織りで作っているのは日本でうちだけです。
──真田紐師とは、どういう仕事をされていますか。
うちでは糸を染めることから、全ての工程(糸を染める、紐に織る、加工)をここでやっています。真田紐は、手織りで一巻き78m。100mの糸を織ると78mになるんです。その長さのものを作るとなると、染め→柄の成形→織るの工程で3ヶ月はかかります。1日で織れるのは大体5m。使っている機織り機も父お手製のもの。うちでは、指物(:木の板を組み合わせて作る家具・器具)もやっていたので機織り機の修理も自分らでやっています。
秘密の多い真田紐。
──その人の系列、血縁関係なども分かる、暗号の紐。『江南』さんでは、真田紐と指物を兼業されていたのですか。
指物は僕で7代目で、真田紐は15代目になります。真田紐は裏の仕事でした。とても秘密が多かったので、真田紐屋さんっていうのを表に出せず初代の頃からしばらくは、指物師としての看板を出していました。表向きは指物屋で、土間の奥に入ると真田紐屋が機織っているという感じ。
──それはなぜですか?
『約束紐』という種類の真田紐があるんですけど、それぞれの家に決まった柄があるん です。家紋と似た証明書のような役割です。家によって色や、線の数、太さなど バラバラに作らないといけない。パッと見てその人の流派や作る職人、血縁関係なども分かります。この真田紐には沢山の情報が入っているんです。ですから誰がどの柄の紐だとか言ってはいけなかったし、柄の見本帳も盗まれたら大変だから作らなかった。このような理由で真田紐の看板は出さずに、細々と作っていました。真田紐はデザイン性より暗号性を重視したものが多かったのです。
──柄はそれぞれ違うのですか。
違います。新たな柄を作るとき、過去300年分(見本帳がある分)を見返します。昔は今より色んな種類の織り機があったり、職人さんも多く、やれることの幅が広かったのですが、今はパターンが狭い。ですから線を増やしたり、一本の線を2色の糸で作ったり、染料につける回数を変えて色を調整したりと工夫します。
──時代によって変化したことはありますか。
それは紐の薄さ。真田紐は時代を表すものやと思います。真田紐は戦争の時は軍事産業、平和な時はお茶室や行事に、時代によって使われ方が違うので、それに合わせて作ります。昔の真田紐は、戦や戦争の軍事装備として用いられていたので今よりも分厚かった。今は一般的に桐箱用なので厚さが薄く、糸一本一本も細い。そうなることで地道に細かい柄ができるようになっています。